大昔、このあたりは海辺であった。いつの頃か漁師の網に一匹の珍しい魚がかかった。これは世間でいう人魚だった。漁師たちが騒いでいるとき、通りかかった坊さんが、「この世に庚申(こうしん)祭りなるものがあるが、この奇魚を供え祈れば、厄除けにもなり福徳がやってくることうたがいなし。」と教えてくれたので、漁師たちは、その晩、庚申様のお祭りをしたそうだ。ところがそのとき、乳母と遊んでいた一人の女の子が、皆の知らぬうちにお供えの人魚の肉を一切れ食べてしまった。

それから成長するにつれて、絶世の美人になって近在の若衆に騒がれるようになってしまった。何百年もの年月が過ぎ周囲の人も景色も移り変わっても容姿が衰えず、それで世をはかなんで髪をそり、念仏を唱えながら山中の横穴に姿を消したという。

八百比丘尼生誕の地として、このような八百比丘尼伝説が残っている。